辞表を使うのはどんな人?
辞表は一般の会社員にはあまり馴染みがない書類ですが、以下の立場の方は辞表を使用します。
会社役員
取締役、監査役、執行役員(委任型)など、会社と「委任契約」を結んでいる役員は、退職届ではなく辞表を提出します。委任契約は民法651条により、いつでも解除できるとされているため、辞表を提出すればその時点で辞任の効力が生じます。
ただし、会社に不利な時期に辞任した場合は損害賠償責任を負う可能性があるため(民法651条2項)、取締役会のスケジュール等を考慮した適切なタイミングで辞任するのが望ましいです。
公務員
国家公務員・地方公務員は、任命権者(各省庁の長、自治体の長など)に対して辞表を提出します。公務員の退職は民間企業とは異なり、国家公務員法や地方公務員法の規定に基づいて手続きが行われます。
公務員の場合、辞表を提出しても任命権者が承認するまで退職は成立しないのが一般的です。民間企業の退職届のように「2週間で自動的に退職」とはならない点に注意してください。
辞表を使う人・使わない人の早見表
| 立場 | 使う書類 | 根拠法令 |
|---|---|---|
| 一般社員(正社員) | 退職届 or 退職願 | 民法627条 |
| 契約社員 | 退職届 or 退職願 | 民法628条・労働契約法 |
| パート・アルバイト | 退職届 or 退職願 | 民法627条 |
| 取締役・監査役 | 辞表 | 民法651条・会社法 |
| 執行役員(委任型) | 辞表 | 民法651条 |
| 執行役員(雇用型) | 退職届 or 退職願 | 民法627条 |
| 国家公務員 | 辞表 | 国家公務員法 |
| 地方公務員 | 辞表 | 地方公務員法 |
退職届にまつわるよくある誤解
退職届・退職願に関しては、誤った情報や思い込みが広まっています。ここでは代表的な誤解を取り上げて、正しい知識をお伝えします。
誤解1:「退職届を出さなくても退職できる」
半分正解、半分誤りです。法律上、退職の意思表示は口頭でも有効です。民法627条は「解約の申入れ」とだけ規定しており、書面であることを要件としていません。
しかし、実務上は書面で提出することが強く推奨されます。理由は以下のとおりです。
- 口頭だけでは「言った・言わない」のトラブルになるリスクがある
- 退職日を明確に証拠として残せる
- 多くの企業で就業規則上、書面提出が義務付けられている
- 雇用保険(失業給付)の手続きで退職の証拠が必要になることがある
誤解2:「会社が退職届を受け取らなければ辞められない」
誤りです。退職届は「到達」すれば効力が生じます。会社が受け取りを拒否しても、退職届が会社に届いた事実があれば、法的には有効です。
受け取りを拒否された場合は、内容証明郵便で送付すれば「到達した」という証拠を確実に残せます。
誤解3:「就業規則の『1か月前』は必ず守らないといけない」
必ずしもそうではありません。多くの企業の就業規則で「退職の1か月前までに届け出ること」と規定されていますが、民法627条1項は「2週間前」と定めています。
この点については学説や判例が分かれていますが、民法の2週間が優先するとする見解が有力です。ただし、円満退職のためには就業規則に従うことが望ましいのは言うまでもありません。
誤解4:「退職届と退職願は同じもの」
明確に異なります。この記事で解説してきたとおり、法的性質、撤回の可否、効力の発生時期がすべて異なります。会社によっては区別せずに扱っている場合もありますが、法的には別の書類です。
トラブル時の対処法
退職をめぐるトラブルは少なくありません。ここでは代表的なトラブルと対処法を解説します。
退職届が受理されない場合
会社が退職届の受け取りを拒否するケースがあります。この場合の対処法は以下のとおりです。
対処法1:内容証明郵便で送付する
内容証明郵便は、「いつ、誰が、誰に、どんな内容の文書を送ったか」を日本郵便が証明してくれるサービスです。費用は基本料金+内容証明加算料金(480円)+一般書留加算料金(480円)で、合計1,500円程度です。内容証明郵便が会社に届いた時点で、退職届が「到達した」ことの法的な証拠になります。
対処法2:労働基準監督署に相談する
退職を妨害する行為は、労働基準法5条(強制労働の禁止)に抵触する可能性があります。最寄りの労働基準監督署に相談すれば、会社に対して指導が行われることもあります。
対処法3:退職代行サービスを利用する
近年利用者が増えている退職代行サービスは、労働者に代わって会社に退職の意思を伝えてくれるサービスです。料金相場は2万〜5万円程度です。弁護士が運営する退職代行であれば、法的な交渉も任せられます。
損害賠償を請求すると脅された場合
「退職するなら損害賠償を請求する」と会社から言われるケースがまれにあります。しかし、民法627条に基づく適法な退職であれば、損害賠償が認められることはほぼありません。
不安がある場合は、弁護士や各地域の労働局(無料相談可能)に相談することをおすすめします。
まとめ
- 退職届は退職の「一方的な通告」。会社の承諾は不要で、到達から2週間で退職が成立する(民法627条)
- 退職願は退職の「お願い」。会社が承諾して初めて退職が成立し、承諾前なら撤回も可能
- 辞表は会社役員・公務員が使う書類。一般社員は使わない
- 円満退職を目指すなら、まず退職願を出して合意を得てから、退職届を正式に提出するのが理想
- 退職届と退職願の書き方の違いは「語尾」にある。退職届は「退職いたします」、退職願は「お願い申し上げます」
- 退職届が受理されない場合は、内容証明郵便・労働基準監督署・退職代行サービスの活用を検討する
