退職届・退職願の撤回はできる?
「やっぱり退職を撤回したい」と思ったとき、退職届と退職願では対応がまったく異なります。ここでは撤回の可否を詳しく解説します。
退職願の撤回
退職願は合意退職の「申し込み」にあたるため、会社が承諾する前であれば撤回が可能です。
ただし、「会社が承諾した」とみなされるタイミングには注意が必要です。過去の判例では、以下のような基準が示されています。
- 直属の上司に伝えただけ→まだ承諾とは言えない場合が多い
- 人事部長や取締役など、人事権限を持つ者が承諾→承諾が成立したとみなされる
- 取締役会で承認された→確実に承諾が成立
つまり、退職願を撤回したい場合は、人事権限を持つ上位者が承諾する前に撤回の意思を伝える必要があります。スピードが重要です。
退職届の撤回
退職届は一方的な退職の意思表示(解約の告知)であるため、原則として撤回はできません。
民法では、意思表示は相手に到達した時点で効力を生じるとされており(民法97条1項)、到達後の撤回は認められないのが原則です。
ただし、以下のような例外的なケースでは撤回が認められる可能性があります。
- 会社側が撤回に合意した場合(会社の好意による)
- 退職届を提出した際に、錯誤・詐欺・強迫があった場合(民法95条・96条)
実務的には、会社が「撤回してもいいよ」と言ってくれれば撤回できますが、法律上の権利として撤回を主張することは困難です。
撤回可否のまとめ
| 書類 | 撤回の可否 | 条件 |
|---|---|---|
| 退職願 | 可能 | 人事権限者が承諾する前に限る |
| 退職届 | 原則不可 | 会社が同意した場合のみ例外的に可能 |
この違いがあるからこそ、まずは退職願を出して様子を見るという実務慣行が存在するのです。
自分はどちらを出すべき?シナリオ別ガイド
「結局、自分はどちらを出せばいいの?」という疑問に、シナリオ別でお答えします。
判断フローチャート
Q1. あなたの立場は?
- 会社役員・取締役・監査役 → 辞表を提出
- 公務員 → 辞表を提出
- 一般社員・契約社員 → Q2へ
Q2. 退職の状況は?
- 円満に退職したい → 退職願を先に提出
- 会社と合意済み → 退職届を提出
- 退職を引き止められている → 退職届を提出
- パワハラ等で今すぐ辞めたい → 退職届を提出(内容証明郵便も検討)
シナリオ別の詳細解説
シナリオ1:円満退職を目指す場合
最も一般的なケースです。まず退職願を直属の上司に提出し、退職日を相談のうえで合意を得ます。その後、会社のフォーマットに従って退職届を正式に提出するのがベストです。
シナリオ2:すでに退職の合意がある場合
口頭で退職を伝え、上司や会社から了承を得ている場合は、退職願を省略して退職届を提出しても問題ありません。多くの会社では、所定の退職届フォーマットへの記入を求められます。
シナリオ3:引き止めにあっている場合
退職願を出しても会社が承諾しない、あるいは強く引き止められているケースです。法律上は退職届を出せば2週間後に退職できるため、退職届を提出して一方的に退職の意思表示をするのが有効です。
シナリオ4:ハラスメント等で即日退職したい場合
やむを得ない事由がある場合は、民法628条により即時に退職できます。退職届を内容証明郵便で会社に送付し、退職の意思表示が確実に到達した証拠を残すことをおすすめします。
退職願→退職届の正しい提出順序
実務において、退職のプロセスは以下の順序で進めるのが理想的です。
ステップ1:口頭で退職の意思を伝える(退職の1〜2か月前)
いきなり書面を出すのではなく、まず直属の上司に口頭で退職の意思を伝えましょう。「ご相談があるのですが」と切り出し、退職を考えていることを伝えます。
ステップ2:退職願を提出する(退職の1か月前目安)
上司と相談のうえ、退職願を正式に提出します。退職希望日を記載し、会社側の承諾を求めます。多くの企業の就業規則では「退職の1か月前までに申し出ること」と規定されています。
ステップ3:退職日の合意・業務引き継ぎ
会社側が退職願を承諾したら、正式な退職日を決定します。後任者への業務引き継ぎもこの時期に進めましょう。
ステップ4:退職届を提出する(退職日の2週間前まで)
退職日が確定したら、退職届を正式に提出します。会社指定のフォーマットがあればそれを使用し、なければ自作の退職届を用意します。
ステップ5:退職手続き・最終出社
保険証の返却、貸与物の返却、退職金・離職票の確認など、退職に必要な手続きを行います。
退職届と退職願の書き方の違い
退職届と退職願は、書き方の基本フォーマットは似ていますが、語尾に決定的な違いがあります。
退職願の文面例
このたび一身上の都合により、
〇〇年〇月〇日をもちまして
退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。
ポイントは語尾の「お願い申し上げます」です。あくまで退職を「お願い」する立場の文面であり、会社の承諾を前提としています。
退職届の文面例
このたび一身上の都合により、
〇〇年〇月〇日をもちまして
退職いたします。
ポイントは語尾の「退職いたします」です。お願いではなく、退職を通告する確定的な意思表示です。
書き方の違い比較
| 項目 | 退職願 | 退職届 |
|---|---|---|
| 表題 | 退職願 | 退職届 |
| 語尾 | 「退職いたしたく、お願い申し上げます」 | 「退職いたします」 |
| 性質 | お願い(合意退職の申し込み) | 通告(一方的な意思表示) |
| 宛名 | 代表取締役社長 〇〇 殿 | 代表取締役社長 〇〇 殿 |
| 退職日 | 退職希望日を記載 | 確定した退職日を記載 |
| 署名 | 所属部署・氏名・捺印 | 所属部署・氏名・捺印 |
語尾がたった一文変わるだけですが、法的な効力はまったく異なります。書類を作成する際は、自分がどちらを出すべきかを確認してから語尾を決めましょう。
