「退職届」と「退職願」、何が違うの?——転職や退職を考え始めたとき、多くの方がぶつかる疑問です。さらに「辞表」という言葉もあり、混乱してしまう方も少なくありません。実はこの3つの書類は、法的な効力も撤回の可否もまったく異なります。間違えると退職トラブルの原因になることもあるため、正確な理解が欠かせません。この記事では、退職届・退職願・辞表の定義の違いから、民法627条に基づく法的効力、撤回できるかどうか、そして「自分はどちらを出すべきか」まで、実務に役立つ情報を網羅的に解説します。

この記事でわかること
  • 退職届・退職願・辞表の定義と根本的な違い
  • 3つの書類の比較表(対象者・法的性質・撤回可否・文面の違い)
  • 民法627条に基づく法的効力の解説
  • 退職届と退職願、どちらを出すべきかのシナリオ別判断基準
  • 退職願→退職届の正しい提出順序と実務フロー
  • 書き方(語尾)の決定的な違い
  • 退職届が受理されないときのトラブル対処法

退職届・退職願・辞表とは?それぞれの定義

退職に関する書類は主に3種類あります。名前が似ているため混同されがちですが、それぞれの性質はまったく異なります。まずは基本的な定義を押さえましょう。

退職届とは

退職届は、会社に対して退職を一方的に通告する書類です。「届」という字が示すとおり、届け出る=通知するという性質を持っています。

退職届を提出した時点で、労働者の退職の意思表示が会社に到達したことになります。会社側の承諾は法律上不要であり、届出が到達すれば民法627条に基づいて一定期間後に労働契約が終了します。つまり、退職届は「辞めます」という確定的な意思表示です。

退職願とは

退職願は、会社に対して退職の合意を求める(お願いする)書類です。「願」の字が示すとおり、願い出る=お伺いを立てるという性質があります。

法的には「合意退職の申し込み」にあたり、会社側がこれを承諾して初めて退職が成立します。つまり退職願は「辞めさせていただけないでしょうか」というお願いであり、退職届とは根本的に性質が異なります。

辞表とは

辞表は、会社役員(取締役・監査役など)や公務員が、その職を辞する際に提出する書類です。一般の会社員が使う書類ではありません。

役員は労働者ではなく「委任契約」に基づいて職務を遂行しているため、退職届・退職願ではなく辞表を用います。公務員も同様に、任命権者に対して辞表を提出するのが慣例です。

なぜ実務で退職願が使われるのか?

法律上、退職届さえ出せば退職できるのに、なぜわざわざ退職願を出すのでしょうか?

答えは「円満退職のため」です。退職届はいわば一方的な通告ですから、いきなり提出すると会社側との関係が悪化するリスクがあります。退職願でまず「退職したい」という意思をお伺いし、会社と合意のうえで円満に退職するのが、日本の職場慣行における一般的な流れなのです。

【比較表】退職届・退職願・辞表の違い一覧

3つの書類の違いを一覧表で整理します。

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比較項目退職届退職願辞表
定義退職の一方的な通告退職の合意を求める願い出役職を辞する届け出
法的性質解約の告知(一方的意思表示)合意退職の申し込み委任契約の解除通知
対象者一般社員・契約社員一般社員・契約社員会社役員・公務員
会社の承諾不要必要不要(民法651条)
撤回の可否原則不可承諾前なら可能原則不可
提出タイミング退職日の2週間以上前(民法627条)退職届より先に提出辞任を決意したとき
文面の語尾「退職いたします」「退職いたしたく、お願い申し上げます」「辞任いたします」

この比較表で最も重要なポイントは、「会社の承諾が必要かどうか」と「撤回できるかどうか」の2点です。次の章で、法的な根拠とともに詳しく解説します。

退職届と退職願の法的効力の違い

退職届と退職願の違いを正確に理解するには、法律的な背景を知ることが重要です。ここでは民法の規定をわかりやすくかみ砕いて説明します。

民法627条の規定

退職に関する最も重要な法律は民法627条です。条文の要点をまとめると以下のとおりです。

内容ポイント
627条1項期間の定めのない雇用契約は、解約の申入れから2週間で終了する正社員の退職は2週間前に申し出ればよい
627条2項期間によって報酬を定めた場合(月給制)、解約の申入れは次期以後について行う。ただし当期の前半にしなければならない月給制の場合の特則
627条3項6か月以上の期間によって報酬を定めた場合は、3か月前に申入れが必要年俸制などの特則

ここで重要なのは、民法627条1項が定める「解約の申入れ」は一方的な意思表示であるという点です。つまり退職届がこれにあたります。会社側の同意は必要なく、届出が会社に到達してから2週間が経過すれば、法律上は自動的に労働契約が終了します。

退職届の法的効力

退職届は「解約の告知」であり、会社に到達した時点で効力を生じます。

  • 会社の承諾は法律上不要
  • 到達から2週間で退職が成立(民法627条1項)
  • 就業規則で「1か月前」と定めていても、民法の2週間が優先するとされる判例が多い

退職願の法的効力

退職願は「合意退職の申し込み」であり、会社が承諾して初めて効力が生じます。

  • 会社(人事権限を持つ者)の承諾が必要
  • 承諾があるまでは退職は成立しない
  • 承諾前であれば撤回が可能

つまり、退職届は出した瞬間から法的効力を持ち始めるのに対し、退職願は会社が承諾するまで効力を持たない——これが法的効力における最大の違いです。


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